僕から、キミへ












制服を作りに行った時、両親はとても喜んでいた。
 
中学の制服は、作っただけで終わってしまったから。
 
鏡の前で自分の制服姿を見てぼっとしている僕に、
両親は好きな芸能人でも見ているかのように、ワイワイ騒いでいた。

 



家に帰れば何時間にも及ぶ、写真撮影会。
 
その写真を何人もいる親戚に送り、電話がひっきりなしにかかってきた。
 
会ったことある人もない人も、皆して泣いて喜んでいた。

 




生きるって、凄いことなんだ。
 
僕は、今までこんな経験、なかったから。
 
皆にとって当たり前の光景が、僕にとっては奇跡に見えた。









「入ってきて」



 


教室から聞こえた声に、我に返る。
 
そしてもう1度深呼吸をして、扉に手をかけ、一気に開けた。

 



興味深い視線が、一気に集まる。
 
前に読んだ漫画で、視線は痛いって聞いたけど、本当のことだったんだと実感して、思わず涙がこぼれそうになった。








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