告白よりも、ときめきを

「さあ、では帰りましょうか」

「あ、お会計…」

「済んでます、大丈夫です」

「え?でも、今日は奢りとかは無しの御飯の約束でしょ?」

「そう言わないと、来てもくれないし、奢らせてもくれないでしょ?」

あ…もう、…この男前。……やられた。こんな駆け引き、私が慣れてなくて鈍いのか?

「じゃあ…私は御馳走様と言えばいいのでしょうか?」

「はい。それがベストです」

「…では。御馳走様でした。美味しく頂かせていただきました」

「はい、どう致しまして」

あ、もう……何だかな…。


店を出て歩いた。
あ…このままずっとって駄目じゃない。まずいでしょ。

「じゃあ、ここで…おやすみ、また…」

「なに言ってるんです?部屋まで送ります」

「え?いいいい、大丈夫だから」

部屋までって、何言ってるの、駄目駄目。

「いいえ、送ります。そう言ってるでしょ?」

駄目だって…。

「じゃあ、駅まで…駅までで」

「いいえ、部屋まで」

う~、頑なだな~。まあ、駅に着いたら、また言えばいいか。


駅に着いた。

「あ、じゃあ、ここで」

「さあ、電車に乗りましょう。部屋までって、言ったでしょ」

「でも……」

「部屋までです」

話、聞いてないでしょ…。ゔー…。もう、本当……ハァ…、仕方ないのかな。

「…はい」

車内は殊の外、混んでいた。残業帰りの人達がかち合ったのかも知れない。
乗り込んで直ぐ、ドアの近くに立つ事になった。

駅を出て、暫く緩いカーブが続いた。
真っ直ぐに戻って少し揺れた。いつもの事だ。あ。
酔っているのか、ただ踏ん張りが利かなかったのか、私達のような仕事帰りらしいおじさんが振らついた。私に当たるところを、片桐君の腕が透かさず守ってくれた。
おじさんとの間に、咄嗟に腕を入れ、トンッと壁についたのだ。
早い。出来る。流石。
後輩女子なら奇声あげてるところね…。腰、抜けてるかも知れない。…。
結果、顔も身体も凄く接近してしまった。

「…大丈夫ですか?」

小さく確認された。

「あ、あ、有り難う、だ、大丈夫だから」

う、ある意味、大丈夫じゃない…。近い、とにかくこれは近いよ…。守られてる感がハンパないんだから。
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