告白よりも、ときめきを
・…一体、なに
片桐君は鞄を手にすると帰って行った。
……あ。ちょっと…、なんてこと…。唇を手で触れていた。
…どうしてこんな事になったの?
片桐君は…後輩、2歳年下。
…確かに入社仕立ての頃、偉そうに先輩ぶって語った気がする。余りにも酷い落ち込みようだったから。
何とか少しでも元気にしたくて…、柄にも無く、滅多に言わない事を捲し立ててしまった記憶がある。
辞めて欲しく無かったからだ。
誤解しないで欲しいが、その時、片桐君に気があるからという事では無く、営業職に向いてそうな気がしたからだ。
“容姿”、それだけでは駄目だけど、人を引き付ける事が出来るなんて、それだけで、まず武器になると思った。
だから、仕事の面白さを知る前に辞めて欲しく無いと思ったんだ。
きっと仕事が面白くなって来る時が必ず来ると思ったから。
RRRRR、…あ、誰。
廊下に落ちたままだったバッグから携帯を取り出した。
優だ。
「はい、優?」
「ああ。お疲れ」
「うん、お疲れ様。…どうしたの?あー……まだ会社?仕事してるの?」
「いや、もう、出た」
「…そう」
「飯、旨かったか?」
「えっ」
「片桐と。今日、飯食っただろ?」
「なんで知ってるの?」
やっぱり場所が場所だったから、見られたのかな。
「あのね、それ…」
「…片桐が会社出る時、俺に、宇佐美さんと御飯の約束があるんです、って、わざわざ言って帰ったからだ」
どうしてそんな言い方で…優に。
「…」
「…絶句か?」
「あ…うん。でもなんで優に…」
「…」
「…絶句?」
「あ、…ああ」
「…」
「…」