HE IS A PET.



 そのことを、まさか当日になって後悔する羽目になるとは。


 神様って本当にいるのかもしれない。底意地の悪い神様が。


 クルージングの船内は素晴らしくセレブな雰囲気に充ちていて、ハープが奏でる音色が耳に心地よい。

 久しぶりにドレスアップして、優雅に振る舞って、完全予約制のテーブル席に案内されたまではすっかり雰囲気に酔っていたのだけれど。

 隣席に着席したカップルを見て、目玉が裏返りそうになった。

 戸田さんと、怜だった。


 目が合った戸田さんは、切れ長の瞳を見開いたあと社交的な微笑みを見せた。
 控えめな光沢のある黒ジャケに、ノータイのカラーシャツ、さりげなく高価なアクセサリー類。
 スタイリッシュな雰囲気がいかにも業界人っぽい。


「今晩は。プライベートでお会いするなんて、奇遇ですね」


「ええ、本当に。びっくりです」


 怜の方をチラリ見ると目が合って、逸らされた。


「彼女ですか、可愛いですね」


 上手く化けた怜は、相変わらず女の子にしか見えない。

 だからといって、女装させてクリスマスデートだなんて。一体どういう趣向なんだろう。


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