HE IS A PET.
「いいえ、今頑張って口説き中なんです」
話を合わせたのか本気なのか、どちらともつかない口調でそう答えると、戸田さんは
「ね?」
と言って俯いている怜に微笑みかけた。
何だかやってらんなかった。
豪華なフレンチのコースも、船上からのきらびやかな夜景も、隣のカップルが気になって純粋に楽しめない。
せっかく誘ってくれた守田さんに悪くて、無邪気さを装ってはしゃいではみたものの。
私を一瞥もしない怜に、何だか腹が立ってくる。
喋ると男とバレるからか、怜はずっと無言で戸田さんの話しかけに頷いては、時折困ったようなすがる目で彼を見上げていた。
新しい飼い主に早速媚びを売っているのかと思うと、気分が暗く落ちた。
コースも終盤に差し掛かったとき、スマホにメッセージが届いた。
内容を確認して驚いた。
「急用メール?」
「いえ、全然。広告メール」
守田さんに訊かれて、咄嗟に嘘をついた。スマホをバッグにしまい直し、それを持って席を立つ。
「すみません、ちょっとお手洗い」
化粧室前を通り過ぎ、デッキに上がる。