HE IS A PET.
「あ、倉橋さん。チョコありがとう。お礼遅くなってごめん」
「ううん、全然」
さすが野上くん。親しき仲にも礼儀あり。
「野上、北浜葬祭の損益計算書出しといてくれ。十七期分のな」
それに比べて、この俺様先輩は。最近特に機嫌が悪い。
それを察知した野上くんは、良い返事をしてさっと書庫に消え、私も黙ってデスクに向かった。
午後七時過ぎ、時計を気にしていた野上くんが席を立つ。
「すみません、お先に失礼します」
「ああ、お疲れさん。彼女に宜しく」
照れ笑いを浮かべて事務所を出たスーツ姿を見送る。
恋人持ちはバレンタインデートか、こん畜生。
「倉橋も適当に区切りつけて帰れよ。彼氏が電話待ってんぞ」
「そんな彼氏いませんから、お気遣いなく」
知ってるくせに。嫌味だな。
「神戸の彼は。付き合ってんじゃねーのか?」
ああ、守田さんのことか。
長尾さんとは面識がないはずなのに、やけによく覚えているのは、守田さんが平林のおじーちゃんのお孫さんだからだろう。
私が担当になる前は、長尾さんがおじーちゃんの茶飲み友達だったらしい。