HE IS A PET.


「いつまでぶつくさ言ってんだよ。ほら行くぞ」

 長尾さんに促されて、我に返る。
 
 最近、現実逃避が激しいと自分でも思う。
 だって、忘れたい。

 記憶から、消えてしまえばいいのに。そう願うほど、痛いほど思い知る。

 怜のことを忘れるなんてできない。


 でも多分、想い出に変えることはできるだろう。生傷が自然とかさぶたに変わるように。

 大切なのは、癒えきる前にかさぶたを剥がさないことだ。


『咲希さん…………好き』

 そう言って抱きしめられたときの胸の鼓動も

『咲希さんが、後悔しないなら』

 切なげに押し入ってきた情動も。

 想い出にできるまでは、アズミンの顔も見たくない。



『アズミがいるから、生きてられる』

 アズミンの存在意義は大きすぎて、怜の自己評価は低すぎる。

 私は二人とも大切で、大好きで。憎らしい。



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