HE IS A PET.




 怜にもアズミンにも会わなくなって、一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月が経った。


 三月は恐怖の『決算月』で仕事が鬼忙しく、恋愛の感傷に浸れる暇など全然なくて、気付けば、もう四月も後半。


 期が変わろうが、春の連休に世間が浮かれてようが、私の生活に変わりはない。
 職場で変わったことと言えば、一人息子のために願をかけて田中さんが禁酒を始めたことと、亜美ちゃんに彼氏ができたことくらいか。


 私の生傷は放置し続けた成果が上がり、かさぶたになりつつある。

 なのに、神様はやっぱり意地が悪い。




「ねー、この子誰? 知ってる?」

「さー、モデルじゃない?」

「へー、すごく色っぽくない?」


 目薬を買いに立ち寄ったドラッグストア。
 女子高生たちが話題にしていた化粧品のポスターに、何気なく目をやって、息が止まりそうになった。

 怜だった。


『その儚さを、閉じこめたい』

『潤ツヤ長時間キープ・ルージュ』


 斜め四十五度の角度でこちらを見つめる怜は、どこか淋しげに、ひどく妖艶な微笑みを浮かべている。
 メイクの違いか写真の撮り方か、今まで見たどの『怜ちゃん』よりも大人びて見える。

 誘うような眼差しに逃げるような微笑。


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