HE IS A PET.



『大丈夫。咲希さんの嫌なことは、したくないから』


 怜の嘘つき。

 私はこんな形で怜を見たくはなかった。

 偽りを纏う怜を。
 飼い主のために、自分を差し出す怜を。

 見るのが嫌で逃げ出したのに、気づけば、街中のあちらこちらで怜のポスターを見かけるようになった。


 戸田さんは言っていた。

 ポスターが世間に認知された頃合いを見て、怜の性別を公表し話題を呼ぶのが宣伝戦略だと。

 そんなことをして、怜は大丈夫なんだろうか。

『男の娘(おとこのこ)』として怜自身を売る気なら、どうしても心配になる。

 今までもネットで『女の子モデル』をしていた怜だけど、怜と『怜ちゃん』は切り離して扱われていた。
 怜の私生活は晒されることはなく、守られていたのに。

 それに、1ネットショップのモデルと、大手化粧品メーカーのポスターモデルとでは、知られる範囲もまるで違う。家族や身近な友達にも知られてしまうかもしれないのに、大丈夫なんだろうか。

 多分そのこともあって、アズミンも反対していたはずなのに。
 どうして引き受けることにしたんだろう。

 怜のプライバシーや気持ちはちゃんと守ってもらえるのか、アズミンを問い詰めてやりたいけれど、知ったところで私の自己満足にも満たないだろう。


 分かり切っていることが一つだけあるから。

 怜は好きでやっている。飼い主の望みなら、それは怜の望みになる。

 私が、どうこう言えることじゃない。


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