HE IS A PET.
光沢のある黒い台紙に金色の文字で
『(有)幸誠企画
経理部 チーフ 千歳敦司(Atushi Chitose)』
と書かれ、連絡先は携帯番号のみが記されている怪しさ抜群の名刺。
穴が開くほど見つめてみたけれど、覚悟はなかなか決まらなかった。
『有限会社 幸誠企画』については、調べがついた。
キャバクラやピンサロなどを経営している会社で、堂々と公表はしていないけれど、どうやら暴力団の系列らしい。
『経理部 チーフ』のチトセの年齢や風貌を見ても、納得がいく。
堅気の名刺じゃないのは一目瞭然だしな。
黒光りするチトセの名刺は、私の名刺ホルダーの中で異彩を放っている。
『覚悟があるなら、電話してきなよ』
意味深な挑発に乗れないのは、相手が本筋だと知ったからか、私に知る資格がないからか。
チトセは、私を怜の飼い主だと勘違いしている。
チトセの言う『ホントのこと』って何だろう?
それを知れば、怜を飼っていられなくなるというのは、どういう意味だろう。
チトセに捨てられて、ショックでボロボロになったという怜の過去は前に聞いた。
自分に依存していた従順なペットを、チトセはどうして捨てたんだろう。
チトセの口調に罪悪感などは微塵も感じられなかった。
それどころか、まるで怜を憎んでいるような。