HE IS A PET.
Mermaid
だってしょうがないじゃん。
私が怜と一緒にいたいと願っても、怜が一緒にいたいと願う相手は違う。
それはアズミンだと思っていたけれど、それも違うのだと、怜を知るほどに理解した。
怜がずっと待ち続けている相手は――……
手にした黒い名刺の威圧感に、決心が萎えそうになるけれど。
私が怜のためにできることがあるとしたら、これしかない気がする。
怜の顔を思い浮かべて決心を固め、チトセの電話番号をダイヤルした。
「ハイ、幸誠企画です」
テンションも声質も低い男の声が出た。
「千歳さんですか?」
「あんた誰?」
「二週間ほど前に銀行で、名刺を頂いた…」
「ああ、レイの」
例の、と言ったのか怜のと言ったのかは分からないけれど、あの時の感じの悪い女だと分かってくれたようだ。
「覚悟決まったんなら、今から言う場所に三時に来なよ」
そう言うと、チトセは新宿の住所をつらつらと早口で述べた。
それを慌ててメモに書き留める。
「三時って、お昼の?」
「ああ」
午後三時まで、あと一時間もない。
躊躇する暇はない。急いで身支度を整えて、シュウへの書き置きを残した。