HE IS A PET.


 幸誠企画の事務所は、雑居ビルの一角にあるらしい。
 スマホのGPSナビで付近には辿り着けたものの、それ以上を特定できず迷ってしまった。

 この近くには違いないだろうけどと、建ち並ぶビルを眺めて見るけれど、怪しげな看板が多く目について気後れしてしまう。

 如何わしげな雑居ビルの狭間で、キョドキョドしている私が余程挙動不審だったのか、

「キミ、どうしたの?」

 通りかかったオジサンに声を掛けられた。

「あ、あの……幸誠企画って会社を探してるんですけど。ご存知ですか?」

 尋ねると、オジサンはまじまじと私を上から下まで見た。


「キミ、困ってる事があるんなら、オジサンが相談に乗ってあげてもいいよ」


 は?
 だから、道訊いてんじゃん。

「いくら、要るのかな」

 は?


「ねーちょっと。うちの女の子に何か用っすかね?」

 尖った硬質な声が、オジサンの背後から掛けられた。

 オジサン越しに見上げれば、不機嫌を顕にしたチトセが立っていた。
 銀行で会ったときとは違って、見るからにヤクザな身なりをしたチトセに、

 オジサンがギョッとした顔をした。

「あっ、いや、み、道を訊かれて」


「そーすっか。てっきり店外交渉してんのかと思って、ビビったっすよ。んな真似されたら、うちの商売あがったりっすからねえ」

「はっ、はいそれは、もう勿論…」

 しどろもどろになって逃げ去ったオジサンを見送って、チトセは私に視線を落とした。




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