HE IS A PET.


「……やっ、あ、」

 身を捩って避けたけれど、少しの抵抗など簡単にねじ伏せられる。
 少しの気遣いを見せながらも行為を押し進めようとする怜を、ぐいと両手で押し返した。


「やめて、怜っ……チトセがっ、戻ってくる」

 まさかこんな場面を見られるわけにはいかない。

 とりあえず離れて、服を身に着けてほしい。ああ、その前に身体を拭かなきゃ。風邪でも引きかけているのかもしれない。こんなに熱くて、なのに震えてる。

 ばっと怜が身体を起こした。
 急速に温度を失った瞳は、呆然としている。

 冷水を浴びせられたような、夢から醒めたような顔をして、怜が呟いた。


「チトセ……」

 怜にとってチトセと言えば、悠里だ。
 
「ごめん、チトセって悠里じゃなくて……千歳敦司。チトセのお兄さんのこと」

 怜は呆然としたまま、当然の疑問を返した。

「……チトセの、お兄さん? 何で、咲希さんが知ってるの……」

「少し前に、偶然知り合って」

「……チトセのお兄さんに?」

 何の親近感も嫌悪感もなさそうな、怜のたどたどしい口調に、ふと思う。
 あれ、もしかして。怜はチトセ兄のことを知らない?


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