HE IS A PET.

「とりあえず、服着て。話はそれから」

 釈然としない様子で口をつぐんだ怜に命令すると、素直にそれに従ってベッド脇の衣類に手を伸ばした。

「あ、ちょっと待って。汗、拭いた方が……タオル」

 確かバッグの中に、ハンドタオルがあったはず。

「大丈夫。拭いたら、汚れる」

「今さらそんなこと気にする?」

 ついさっき手を汚されたことを揶揄すると、赤くなってばつが悪そうに俯く怜は、やっぱり可愛い生き物だ。

 服を纏うと、さらに変身する。

 五部袖のシンプルな白シャツに、ダークグレーのジレ・ベスト。クールな配色に、薄いピンクのパイピングが甘いアクセントになっている。
 下は、カーゴ風のクロップドチノ。綺麗目を敢えて外して、遊びを効かせた着こなしだ。

 いつ見ても怜はオシャレで、アズミンという専属スタイリストの存在を、嫌でも思い出させてくれる。

 怜をコーディーネートしているのも、着る服を買い与えて、食事や仕事の世話をしているのも全部、アズミンだ。


「チトセ兄が帰ってきたら、帰ろう。アズミン、心配してたよ」

 ほんとは今すぐにでもここから連れて出たい。
 だけど逃げるように帰るのもチトセに失礼だろうし、魔女に文句も言いたい。

 緑の寝室を出て、勝手にリビングで待つ。

 リビングには、やたらとラベンダー色の物が目につく。風水とかに凝っているのかもしんない。魔女だけに、そういう呪術的なものが好きなのかも。

 それにしても、だ。
 怜を辱しめていた卑猥な物と、あの清楚な風貌はどうにも結びつかない。


< 209 / 413 >

この作品をシェア

pagetop