HE IS A PET.


「そんな契約、するわけないでしょ。帰るよ、怜」

「あんたには訊いてねえよ。コイツに訊いてんだ。コイツ決めさせろ。あんた、前に俺に言ったよな、こいつの意思を尊重したいって。綺麗ごと言って、結局命令すんのかよ」

 チトセの言葉は容赦なく、的確に心をえぐる。

 その通りだ、私は言った。怜がどうするかは怜に決めてほしい、怜の意思を尊重したいと。


「……俺は」

 か細く震える声が、はっきりと告げた。

「チトセに……、悠里に会いたい。そのためなら、何でもする」


「よく言った」


 満足げなチトセの声に、ゆらりと視界が歪む。

 それは一瞬だった。
 振り上げられたチトセの右手が、宙を切った瞬間を、はっきりと捉えた。

 振り下ろされた手は、勢い良く怜の頬を張った。 
 打たれる構えのなかった怜は、派手によろけて床に転んだ。

「……怜っ、ちょっと、何すんのよっ!」

「見て分かんだろ。平手打ち。好きなようにしていいんだろ?」

 チトセは飄々とそう言って、左手に持ったままだったペットボトルの水を飲み干した。
 空になったボトルをべこっと凹ませて、少し離れたシンクに投げ捨てた。

 ガコンという乱暴な音が、キッチンに鳴り響いた。


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