HE IS A PET.


「咲希」

 ピシャリと鞭打つように呼ばれて、ハイっと返事した。
 滅多に怒らないアズミンが怒ると怖い。

「二人とも大人だから、ナニしようがいいのよ。でもねえ」

 一拍置いて、忠告される。

「不倫は駄目よ。オネーさんは許しません」

 二拍置いて、言われた意味が分かる。 
 脩吾さん、何故肝心なことを言ってないのだ。余計なことは喋るくせに。

「シュウ、離婚したよ。そもそも入籍はしてなかったらしいし」




 マンションに戻ると、シュウはいなかった。

 いなくなったことに気づけないほど、部屋中にシュウの気配が残されたままだ。

 使ったコップはそのままだし、お菓子の袋はかろうじてゴミ箱に捨ててあるものの、欠片は散乱してる。

「ったく、出て行くときくらい片付けろっての」

 悪態をつきながら、拾う。捨てる。仕舞う。洗う。畳む……てか服とか、置いてかれても困るんですけど。

 何を持って出たのかが、逆に気になるレベルの忘れ物だ。
 忘れたにしては酷すぎる。手ぶらで実家に帰ったのかもしれない。



< 227 / 413 >

この作品をシェア

pagetop