HE IS A PET.
「咲希」
ピシャリと鞭打つように呼ばれて、ハイっと返事した。
滅多に怒らないアズミンが怒ると怖い。
「二人とも大人だから、ナニしようがいいのよ。でもねえ」
一拍置いて、忠告される。
「不倫は駄目よ。オネーさんは許しません」
二拍置いて、言われた意味が分かる。
脩吾さん、何故肝心なことを言ってないのだ。余計なことは喋るくせに。
「シュウ、離婚したよ。そもそも入籍はしてなかったらしいし」
マンションに戻ると、シュウはいなかった。
いなくなったことに気づけないほど、部屋中にシュウの気配が残されたままだ。
使ったコップはそのままだし、お菓子の袋はかろうじてゴミ箱に捨ててあるものの、欠片は散乱してる。
「ったく、出て行くときくらい片付けろっての」
悪態をつきながら、拾う。捨てる。仕舞う。洗う。畳む……てか服とか、置いてかれても困るんですけど。
何を持って出たのかが、逆に気になるレベルの忘れ物だ。
忘れたにしては酷すぎる。手ぶらで実家に帰ったのかもしれない。