HE IS A PET.


 帰るときになって、急にそわそわし始めた母親が、妙なことを言い出した。

「あんた、もうちょっと居なさい。そろそろ来ると思うから」

 は? 来るって、

「誰が?」

「あんたが事故したって聞いて、飛んで迎えにくるような人がいるなんてねえ。来たら、ちゃんと紹介しなさいよ」

 紹介しなさいよも何も、

「誰それ?」

 私が知りたい。

「え、あんたの彼氏でしょ? お昼前に電話があって、あんた迎えに来たいって。喧嘩別れして気まずいままだから、行くまであんたには黙っててほしいって言われたのよ」

 って喋ってんじゃん。
 というツッコミは置いといて、誰だそれ?

 そんな不審人物に心当たりない。

 だけど全く知らない人間が、実家に電話してきて、やって来るわけはないだろうし。

 怜……まさか、それはないか。
 守田さん……まさか、それもないか。

 不可解さに苦しむ私を、母親がどこか満足そうに見る。

「わざわざ迎えに来るってんだから、あんたもいつまでも意地張ってんじゃないのよ。どんな喧嘩したのか知らないけど、雨降って地固まるって言うじゃないの。急に家に帰って来るから、なんかあったのかとは思ってたのよ。喧嘩するような彼氏が出来てたなんてねえ、知らなかったから心配したじゃないの」

 いやいや、私も知らないってば、そんな話。


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