HE IS A PET.

「~♪」

 唐突な歌声に、意識が呼び戻された。

 マイケル・ジャクソンの『スリラー』をサビから。指先で小気味良くリズムを取りながら、横たわる私の傍らに片肘をついて歌う脩吾は、いつだって空気なんか読まない。

 歌いたいときに、歌いたい歌を歌うだけ。

 うららかな春の朝、子守り唄のような優しさで紡がれるのは、真夜中に徘徊するゾンビの物語。


『今夜はスリラー スリリングな夜

どんなお化けよりも僕が 君をゾクゾクさせてあげる

だから手を握って 抱き合って』
 
 スリラーは、ホラー仕立てのラブソングだ。冗談めかして、言葉巧みに彼女を口説く。


「サキちゃん、もう寝た?」

 すぐ目の前に綺麗な顔があった。怯む間もなく、唇に降ってきた。

 ふわりと柔らかいキス。

「っな、」

「帰るね。バイバイとおやすみのキス」

 いつものようにへらりと笑う脩吾は、いつもと少し違っていて、少しだけ嫌な予感がした。

「大丈夫だよ、サキちゃん。心配しないで眠って。また電話して。玄関の鍵は、掛けてポストに入れとくね」

 そっとまぶたを覆う手のひらに、目を閉じさせられた。







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