HE IS A PET.
「それ、すぐ食べないんなら…」
冷蔵庫に入れた方がいいよと言おうとして、はたと気付く。どうやらここには冷蔵庫も無いっぽい。
「事務所で食べるわ。もうそろそろ行かなあかんから」
「あ、うん。ごめん、もう帰るね」
そして言うべきことがある。
「梶、私もうここには来ない。会うのも今日限りにする。チトセにも」
梶が無表情を振り向ける。じっと私を見て、静かに笑った。
「そら、ええことや。その可愛らしい顔、二度と見せんといてや」
「何、捨てられた子犬みたいな顔してんのよぉ」
車に戻った私を見るなり、アズミンが眉をひそめた。
自分がどんな顔をしてんのか自覚はないけれど、捨て犬のような瞳をしていたのは、梶だ。
捨てられて随分経って、気紛れに差し伸ばされる手を上手にあしらいながら、飄々と生き抜く野性のペット。
「……嫌われたがってた。いい子だから」
「あら、健気ね。怜みたい」
「姐さん方、すんません。次はどこ向かいましょうか」
公務員みたいな風貌をした黒塗りベンツの運転手は、チトセの弟分らしく、私たちを「姐さん」と呼ぶ。