HE IS A PET.
「クローゼット、鍵が掛かってるし。聡子さんは帰って来ないし。咲希さんが来てくれて、良かった」
良かったというのは、単に『助かった』という意味だと分かってても、どきりとする。
ふわりとした笑顔で私の名前を呼ぶ、変わらない響き。
クローゼットに目を遣ると、観音開きの両戸の取っ手を一纏めにして、南京錠が通されていた。
成る程、あれじゃ開けられない。
逃げられないようにしてあるからと魔女が言ったのは、こういうことか。
素っ裸じゃ外に出られない。
左手に握っている鍵の感触を、ぎゅっと確かめた。
「一緒に帰るって約束してくれたら。服、着させてあげる」
怜は目をみはって、それからすごく困った顔をした。
「……約束できない」
「じゃあ、裸でずっとここにいるつもり? 聡子さんは帰ったし、私も明日には帰るよ。帰らないなんて、子供みたいな無理言わないで」
「ずっとここにいたい訳じゃない……行きたいところがあるんだ」
そう言って、怜はさっきまで読んでいた雑誌に視線を落とした。
四国の観光ガイドブックらしい。うどんを食べ歩こうという見出しがある。
もしかして、讃岐うどんの食べ歩きがしたいとか?