HE IS A PET.
怜が出て行ったあと、深呼吸した。
まずはクローゼットの鍵探しだ。
すぐに見つかった。窓際のテーブルセットの椅子の上に、メモ書きと一緒に置いてあった。
どきどきしながら拾い上げたメモには、少し子供っぽい丁寧な文字で、
『ごめんなさい。海きれい』
と書いてあった。
怜らしくて笑えた。
クローゼットを開けて服を着て、再度窓際に行って、カーテンを開けた。
視界に飛び込んできた景色に、息を呑む。
朝の日光を反射させて、キラキラと輝く水面はまるで宝石みたいだ。
「ほんとだ。海、きれい」
一望する瀬戸内海の穏やかな青。
ゆったりと行き交う、漁船や客船が沖に見える。
ホテルの案内書をチェックしてから、アズミンに電話した。
怜を連れ帰れないという報告は冷静に受け止めてくれたアズミンも、
「でね、お遍路の旅に出た」
と伝えると
「何それ、どーいうことぉ?」
声色が一変した。
「自分のために、どうしても行きたいんだって。四国、八十八箇所巡り」
「怜、一人でぇ? 思い立ったら吉日でぇ?」
「うん」
「何考えてんのよ、あの子野たれ死なす気? 何で行かせたの、早く連れ戻して」
「ごめん、無理」