HE IS A PET.

「そんなにすっきりさっぱりした顔されたら、正直へこむんだけど……倉橋さんが幸せなら、良しとしなくちゃね」

「えっ、いえそんなつもりじゃ…」

 正直、肩の荷が下りた気分には一瞬なったけど。
 顔に出しちゃうなんて、なんて失礼なことしやがるの、私。

「幸せになってね。僕が幸せにしたかった分、幸せにしてもらってね」

 怜に幸せにしてもらう?
 そんなこと、考えたこともない。怜といる未来のビジョンも、思い描けない。


「ここ」

 人差し指で自分の首元を示して、守田さんは苦笑した。

「付けられてるよ。キスマーク」


 怜のつけたキスマークは、見えなさそうで見える場所にあって、鮮やかな赤紫色になっていた。

 昨夜、一瞬だけ首筋に走った熱い痛みに思い当たる。


『二人は違う。咲希さんとは違う。身体で払えなんて、アズミも聡子さんも言わない』

 あの時の怜は怒っていて、まるで当てつけるようにして私を抱いた。
 優しく優しく、抱いてくれたけれど、一度も唇へのキスはしてくれなかった。

 セックスはしてもキスはしない、まるで娼婦のような怜にひどく打ちのめされた。

 だから、このキスマークの意味は分からない。
 深い意味はないのかもしれない。

 一時の衝動と憤りに任せたものか。ちょっとした悪戯心が働いたのか。

 それとも――――

 キスマークが、原始的なマーキングの意味を成すのなら。
 怜が意図して残してくれた印だったなら、なんて期待してしまう。

 深い意味なんてないかもしれないのに。



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