HE IS A PET.
Pilgrimage
マンションに帰り着いたのは、午後十時半だった。
パンプスを脱いで、スーツを脱いで、ソファーにへたり込む。
そのまましばらくぼうっと呆けてから、シャワーを浴びた。
シャワー上がりのビールが美味しくって、疲れた身体に沁み渡る。
続けてもう一本飲んだら、途端に眠くなってきて、そのまま寝てしまった。
雨音の激しさに、目を覚ます。時計を見ると、翌朝の八時だった。
テレビを点けて、ニュースを流す。
インスタントコーヒーを淹れて、食パンを焼いて、野菜不足かもしれないと、ビタミン剤も摂る。
いつも通りの日常に、決定的に足りないものがある。
仕事だ。仕事しなきゃ。調子が取り戻せない。
九時を待って、上司の広瀬さんに電話した。
五コールで出ない時には、一旦切って折り返しの連絡を待つのが、暗黙のルール。
ルールを守って十五分ほどして、電話が鳴った。
「おはようございます、倉橋です。すみません」
「おはよう。どうした、何かあったか」
「いえ、あの。今週は丸々お休みを頂いて、申し訳ありませんでした」
「いや、身体の具合はどうだ」
「お陰さまで、もうすっかりいいです。で、今日にでも出来る仕事があれば、出社したいんですが」
週明けの復帰予定にしていたけれど、今日明日をのんびりできる自信が無い。
「じゃあ、長尾にその旨を伝えて、指示を仰いでくれるか。打ち合わせが出来る様なら今日の内にして、本格的な仕事は来週からだ。無理はするなよ」
「はい、ありがとうございます」