HE IS A PET.

「いいけど、変なことさせないでよ。今、外だから。公然わいせつ罪で捕まるからね」

 釘を刺してから、怜に代わる。
 怜は受け取ったスマホをそっと耳に当て、

「うん……うん、俺も……」

 恋人のように甘いトーンで、肯定を繰り返す。

「……してない、ん、できる……え?……うん、大丈夫。咲希さんがいるから……淋しくない」

 急に元気をなくし、私にスマホを返しながら怜が言った。

「アズミ、帰れなくなったって」

「え?」

 電話に出て、理由を問う。


「帰れなくなったって、何で?」

「台風、来てんでしょ?そっち。飛行機、飛びそうにないのよね~」

「台風?」

 そう言えば、沖縄辺りに近づいてるっていうニュースを耳にしたような……
 それにしたって、

「国際線は飛ぶでしょ?」

 台風で国際線が欠航になるなんて、あまり聞かない。

「飛ぶのは飛んで、着陸出来そうになかったら香港辺りで待機なんじゃないの?」

 私がもっともな見解を示すと、アズミンは訳の分からないことを言い出した。

「いやよ。あたし、晴れた日に帰りたいの。もうチケット、キャンセルしちゃったし」

「しちゃったし!?」

 ああ、もうこの人どうしたらいいんだろ。

「何でそーいう大事なことを、先に言わずにしちゃうわけ? そんなんでよく社長が務まるよね。もう真崎さんに会社譲ったら?」

「じゃあ、怜は。咲希に譲ったらいい?」

 笑みを含んだ口調は、どこか挑発的で、余裕たっぷりだ。
 会社の経営も怜を飼うことも、結局は自分だから出来るという自信が根底にあるんだろう。


「自分じゃなきゃ駄目だって分かってんでしょ? とっとっと帰ってきて」

「そんなの分かってたら、置いてかないわよ。代わりがいれば、あたしじゃなくったっていいのよ、怜は」



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