HE IS A PET.

「じゃあ、安住社長みたいに、してあげてくれないかな」


「え、何をですか?」


「緊張してるみたいだから、キスしてほぐしてあげてよ」


 耳を疑った。何食わぬ顔で何言っちゃってんのだ、このカメラマンは。


「無理です。人前でそんなこと出来ません」


「なるほど。僕の前じゃなきゃ、出来るけど?」

「出来ません」

 誘導尋問にかけられたみたいで不愉快だ。ぶっきらぼうに答えた。

 戸田さんは肩をすくめて、怜の方に向き直った。そしてカメラを置いてスタスタと歩いて行く。

 セットを背景に、不安げな様子で私たちのやり取りを見つめていた怜は、目の前に立った戸田さんをおずおずと見上げた。



「怜ちゃん」

 少し身を屈めて、目線の高さを怜に合わせた戸田さんは、おもむろに右手を伸ばした。

「可愛いよ、怜ちゃん。好きだよ」

 とびきり甘い声と優しい手つきが、怜の頬を撫でた。そして、

「安住に怒られるかな」

 自嘲気味に笑ったかと思うと、戸田さんは些か強引に怜の唇を塞いだ。

 怜は僅かな抵抗を見せるも、仕掛けられた深いキスに徐々に脱力していく様が見てとれた。
 慣れた手つきで怜の腰に手を回した戸田さんは、ハートのピアスが嵌まった耳たぶを甘噛みしたついでに、何かを囁く。

 怜の肌色が羞恥に染まる。泣き出しそうなその表情を見て、戸田さんは満足そうに瞳を細めた。



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