HE IS A PET.


「ごめん……なさい」

 消え入りそうな声で謝り、簡易ベッドから下りようとした怜の身体に足を伸ばした。

 学生シャツ越しの腹筋を、ぐっと踏みつける。

 薄茶色の瞳が、さっと狼狽する。
 それでも無抵抗に、私がかける体重を受け入れる。絶対服従を示すように。

 踏んでいる足の爪先で、つうっと撫で下ろしていくと、唯一抵抗を示している箇所に気づく。


「……何これ。罵られて、踏まれて、感じちゃったの?」

 ぐにぐにと踏みつけると、足裏に返ってくる反発力が増してくる。


「それともさっきの消化不良? 追いかけてって、続きしてもらう? 足でも気持ちいいとか、変態だね」

 ピンと伸ばした足の先で擦り上げると、細い腰がピクンと跳ねた。

「……やっ」

 押さえきれないほどに増幅する嫌悪感、苛立ち、背徳感――興奮。

 嫌だと言いながら硬度を増していく怜の身体に、張り詰めていく表情の切なさに、背筋を這うような興奮を覚える。


 そんな私の暴走を止めたのは、スマホの着信音だった。

「はい、倉橋です」

 足の動きを止め、電話に出る。

「ああ、倉橋さん。平林です。今日のお約束なんだけど、急な予定が入っちゃって。申し訳ないんだけど、明日にしてもらって構わないかしら」


「ああ、はい。では明日……閉院後にお伺いして宜しいですか? 日中は予定がありまして」


「ええ。それでお願い。ごめんなさいね」


 電話を切り、じっと会話を聞いていた怜の身体から足を下ろす。


「時間できたから、送ってってあげる」


< 63 / 413 >

この作品をシェア

pagetop