HE IS A PET.
自虐的な言葉を吐いて震える頬に、そっと手を添えると、びくっとした。
「怜。怜は、可愛くて素直で、お利口で、大好きだよ。嫌いになんかなってない。これ以上一緒にいると、情が移りすぎて辛いからね」
素直に言葉にすると、本当にただそれだけのことだった。
預かりものの可愛いペットに、情が移って辛い。
触れている手を離して、怜の右手を取った。手のひらを上に向け、五万円を握らせる。
「だから、そんな顔しないで」
別れ辛くなるから。
「もう仕事戻らなきゃ。バイバイ、怜」
潤んだ瞳で瞬きを繰り返す動作は、涙を零すまいという怜の努力。
ああ、それでもやっぱり泣きそう。と思った瞬間、ぐっと口角を持ち上げて、怜は笑顔を作った。
「……ありがとう、咲希さ…」
堪えきれなくなったのは私の方だった。
怜の言葉を衝動的に塞いだ。
後頭部を両手で掴み寄せ開いた唇の自由を奪うと、綺麗な瞳はみるみる涙で歪んでいく。
いっそめちゃめちゃにして、後腐れないほどに嫌われたい。
そんな乱暴な気持ちが、怜の口内に押し入っていく。
舌が痺れるくらいに熱い。その熱さに驚いて、離れた。
「ご、ごめっ……移るっ…のに、」
軽くパニックに陥っている怜の首筋に、手を当てる。
「熱、あるじゃない」
頸動脈の脈拍も速い。
「それで学校早退して、帰ってたの?」
そのくせにあんな行為をしてという非難も感じたのか、怜はバツが悪そうに頷いた。