HE IS A PET.


 自虐的な言葉を吐いて震える頬に、そっと手を添えると、びくっとした。

「怜。怜は、可愛くて素直で、お利口で、大好きだよ。嫌いになんかなってない。これ以上一緒にいると、情が移りすぎて辛いからね」

 素直に言葉にすると、本当にただそれだけのことだった。

 預かりものの可愛いペットに、情が移って辛い。


 触れている手を離して、怜の右手を取った。手のひらを上に向け、五万円を握らせる。

「だから、そんな顔しないで」

 別れ辛くなるから。

「もう仕事戻らなきゃ。バイバイ、怜」

 潤んだ瞳で瞬きを繰り返す動作は、涙を零すまいという怜の努力。

 ああ、それでもやっぱり泣きそう。と思った瞬間、ぐっと口角を持ち上げて、怜は笑顔を作った。


「……ありがとう、咲希さ…」

 堪えきれなくなったのは私の方だった。
 怜の言葉を衝動的に塞いだ。

 後頭部を両手で掴み寄せ開いた唇の自由を奪うと、綺麗な瞳はみるみる涙で歪んでいく。

 いっそめちゃめちゃにして、後腐れないほどに嫌われたい。
 そんな乱暴な気持ちが、怜の口内に押し入っていく。


 舌が痺れるくらいに熱い。その熱さに驚いて、離れた。


「ご、ごめっ……移るっ…のに、」

 軽くパニックに陥っている怜の首筋に、手を当てる。


「熱、あるじゃない」

 頸動脈の脈拍も速い。

「それで学校早退して、帰ってたの?」

そのくせにあんな行為をしてという非難も感じたのか、怜はバツが悪そうに頷いた。



< 65 / 413 >

この作品をシェア

pagetop