HE IS A PET.
Dog owner
「お、デートか?」
「違いますよ。平林先生の甥っこさんが、自宅の件でお世話になったからって。仕事の謝礼です」
「お礼にご馳走します、なんてのは口実だろ。デートのつもりで行けよ」
「どんなつもりで行っても同じですよ」
「お前なあ、それじゃ男が凹むだろうが。仕事はオフにしろ」
長尾さんの余計なアドバイスのお陰で、守田さんと向き合って着席したとき、妙に緊張している自分に気付いた。
守田さんが予約を取ってくれた創作和食屋さんは、半個室のこじんまりとした空間で、カップル客が多い。
薄暗い照明や豊富なカクテルメニューなど、『オフ』の雰囲気が私を緊張させる。
「守田さん、神戸の方なのにこっちのお店詳しいんですね」
「大学はこっちだったから。今も出張で時々来るし。って言っても、こんな洒落た店に来たことないけど」
守田さんは照れくさそうに笑った。
「倉橋さんにかっこつけたくて、ネットで調べまくった。でも初めての店って、どうも落ち着かなくって」
角ばった顔の輪郭や、笑うと可愛らしく見えるところが、平林のおじーちゃんとよく似てる。
「いい歳した男が格好悪いよね、ごめん」
「いえ、全然。格好悪くないですし、いい歳だなんて。お若いじゃないですか」
「でも倉橋さんから見たら、もうオッサンじゃない?」
「じゃないですよ。『大人の男の人』って感じはしますけど」
三十二歳という年齢相応には見えるけれども、気さくな雰囲気からか年齢差を意識させない守田さんは、嬉しそうに瞳を細めた。