HE IS A PET.
Hickey



 翌朝、怜は私より早く起きていて、朝食を作ってくれていた。

 トーストに目玉焼きに、サラダに野菜スープ。

 初めてうちに来た日の翌朝を思い出す。
 あの時のトーストは焦げていたし、目玉焼きは潰れていたけれど、今日のは上出来だ。しかも野菜スープまでついている。


「すごいじゃん、怜。料理スキル、アップしてる」

 誉めると、怜は嬉しそうに笑った。

「でしょ。カレーも作れるようになったよ」

「へぇすごい、今度作って」

「うん」

 案外器用な怜は、やればできる子なんだろう。
 アズミンが何でも完璧にできるから、怜がする必要性がなかっただけで。

 アズミンは意外に完璧主義者だ。だらしない喋り方のせいでゆるい人間に見られがちだけれど、妥協は絶対しない。料理も調理師免許を持つ腕前だし、美容にいい食材がどうだのと煩い。


 でも男の趣味が悪い。
 だから、私はアズミンのことが嫌いだ。

 何事もなかったかのように振る舞う怜の、痛々しいキスマークが目については苦々しい気持ちになる。


「ご飯食べて終わったら、アズミンに電話するから」


「……何て言うの?」

 強ばった瞳が、不安げに私を窺う。

「怜、うちに来てるって。しばらく預かるって。言っとかないと心配するでしょ。てか、もうしてるだろうし」

 すればいい。うんと心配して、気づけばいいんだ。
 エリックなんかより、怜が大事だって。


「してないと思う。電話もないし」

 怜はポツリとそう答え、淋しげな微笑を浮かべた。



< 84 / 413 >

この作品をシェア

pagetop