HE IS A PET.



 約一ヶ月ぶりに見るエリックは、髪型が進化していた。
 
 待ち合わせのコーヒーショップ前、ガラス張り越しに目が合って微笑まれた。
 片側から地肌が見えるほどきつく編み込んだ三つ編みを、渦巻きのようにぐるぐるさせながらもう片側に流している。青い毛束は多分エクステだろう。

 奇抜なヘアスタイルも、国際的な風貌ならではの似合いよう。
 ショップ前を行き交う人々は、必ずちらりとエリックを見て通る。

 人目を引いて仕方のない彼に、惹かれてしまうのは仕方のないことなのかもしれないけれど。


「How have you been? I'm glad to see you again.」

 アメリカ人らしく気のいい挨拶を述べるハスキーボイスに、

「Thank you.」

 日本人らしく謙虚な笑みを返した。

 英語もエリックも苦手だから、無理して愛想を振る舞う気分にはなれない。

 ましてや怜を虐待した相手と知った後だ。
 敵対心むき出しの私に、エリックが笑う。

「You hate me?」

 正直に「イエス」と答えてしまった。

 エリックは露骨に眉をしかめて、なぜ自分を嫌うのかと怒った。

 アズミンに頼まれて、わざわざ怜の荷物を届けに来た自分は、感謝こそされど恨まれる覚えはないと。
 
 早口の英語を聞き取るだけで精一杯の私は、回りくどい言い回しが浮かばず、どストレートに尋ねてしまった。

 怜を暴行したのかと。


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