あなたの大切なひと
私には、一応彼がいた。
一応というのは、もう長過ぎて、ぬるい関係。
仕事がお互い忙しいと、平気で何カ月も会わないでいた。

それから、吸収される前の部署の仲間は、心細さを紛らわそうとして、定期的に飲み会をしていた。

「もぉ!聞いてよ。私の係の年下の男、完全に私のこと、バカにしてるの!少し仕事ができるからって、吸収した側だからって!」

経理に行った楯岡令子は、そう言って新しい職場の年下の男の悪口を言って、さっきからだいぶジョッキを空にしていた。
荒れる令子を見て、やはり今回の吸収合併は、多かれ少なかれ心に影響を与えているな、と感じた。
令子ときたら、毎回毎回その男の悪口を言っている。

あんまり、その男のことしか、言わないから、逆に気になるのかな?とふと思って、
「まあまあ、そのうち好きな所も発見できるよ」
と言って、なだめていた。
「あんな奴好きになる訳ないじゃん!
それに、若いうちに結婚してるんだよ!」
となぜだか、逆ギレしていた。
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