嘘から始まる運命の恋
 片側だけ開いている重そうなドアを通った先は、ほの暗いバーになっていた。そこでワンドリンクを注文し、ステージ前の客席へと向かうことになっている。私はカンパリオレンジを買って、隅の丸テーブルに着いた。

 ぐるっと見渡したが、今いるのはカップルが三組と四人組のグループ客だけ。快はまだ来ていないようだ。

 薄暗いステージでは、係の人とバンドのメンバーが準備を整えているのがシルエットでわかった。

 電子チケットには〝ケイズ・ジャズ・クインテット・ライブ〟と書かれていたけれど、〝ケイズ・ジャズ・クインテット〟なんてバンド名、初めて聞いた。

 そもそも真由里の遊び相手が行きたがるライブだから、どうせたいした演奏はしないだろう。友人にチケットをさばきまくっているアマチュアバンドかもね。

 そんな失礼なことを思いながら、カクテルグラスに口をつけた。

 ライブハウスに来るのは久しぶりだ。大学時代にジャズサークルでピアノを弾いていたので、大学生のときにも社会人になってからも、何度かジャズバンドのライブを聴きに行ったことがある。このライブハウスは初めてだけど、ライブハウスの雰囲気には慣れているので、快に指定されたとはいえ、場所の点では完全アウェーではない。
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