嘘から始まる運命の恋
 こぢんまりとしたステージの上にはブラック系のスーツ姿の男性が五人いた。ステージのほぼ中央にいるのは、首からアルトサックスをさげた男性。背がすらりと高く、くっきりとした二重が印象的な甘めの顔立ちをしている。私から見て彼の右側――つまりステージの上手側――には、トランペットの男性がいる。真面目そうだけどかなり整った顔立ちだ。ステージの一番下手、グランドピアノの椅子に座っているのは、長い黒髪を後頭部でまとめた男性。いかにも芸術家といった風貌だ。一番上手にいるドラムスの男性は、明るい茶髪にパーマをかけたやんちゃな印象。残るひとり、トランペットとドラムスの間にいるベースの男性は、クラシックの世界ではコントラバスと呼ばれる楽器の大きさに負けないくらい大柄だ。見たところ、全員三十歳前後くらいだろう。

 なかなかのイケメン揃いだ。でも、外見がいいからって演奏がいいってわけでもないだろう。

 そんなひねくれた思いで、頬杖をついてステージを見る。ステージの上では、アルトサックスの男性がマイクを握って挨拶を始めた。

「みなさま、本日はケイズ・ジャズ・クインテットのライブにようこそお越しくださいました。おいしいカクテルと一緒にどうぞライブをお楽しみください」

 彼が最初に演奏する曲名を告げた直後、力強いドラムソロで演奏が始まった。続いてトランペットが躍動感のあるイントロを奏で始める。CMでもよく使われる、誰でも知っている有名な曲だ。
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