嘘から始まる運命の恋
 耳もとで低い声がして、息が止まった。本当は悲鳴をあげたかったけど、息が止まったせいでかすれ声ひとつ出てこない。

 だ、誰?

 身動きできないまま視線をすぐ下に向ける。私を抱きしめているのは、白いシャツの腕。袖口を二回ほど折り曲げていて、覗いている手はゴツゴツとして骨っぽく、そして大きい。その腕の下にある私のシフォンブラウスはありえないくらい乱れている。というか、ボタンが全部はずれていて、キャミソールはまくり上がっているし、ブラジャーも浮いている……。つまり、ホックがはずれているってこと。

 すっと血の気が引くのが自分でもわかった。さらに視線を下げると、腰から下にはブラックの男物のジャケットが掛けられている。でも、下半身のこの頼りなさ、ショーツを履いていない予感が大だ。

 信じられない思いで視線を床にさまよわせたら、私が横になっているソファの足もとに、ブラックのスラックスとペールブルーのショーツが落ちていた。

 あのショーツ、私のだっ!

 きゃぁああああっ。

 本気で悲鳴をあげたい。あげたいけど、どうにかこらえた。

 なんで、なんで、どうして。
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