嘘から始まる運命の恋
 大学時代に何度も演奏した、思わず踊り出したくなるようなリズミカルなメロディに、つい指先が反応してしまう。

 うまい。

 それに、聴いていて楽しくなる。

 始まる前、真由里の遊び相手が行きたがるライブだから、どうせたいした演奏はしないだろう、なんて思ったことを猛省する。こんなバンドを知っているなんて、快という男、ジャズのわかる男らしい。

 各楽器それぞれの奏者の腕もすばらしいけど、バンドとしての一体感、曲についての理解、表現力、そういったものもすごいのだ。これはアマチュアのレベルじゃない。まぎれもない、プロだ。

 演奏にのせられて、ほかの客席でも客が脚でリズムを取ったり、体を揺らしたりしている。頭に、心に、体に響いてくるような音楽に、忘れていた情熱が蘇ってくる。

 楽しい。いいなぁ、ピアノ弾きたい。

 体の奥底まで震わせるドラムのリズム、鼓膜に心地良く響くベースの低音、胸が熱くなるような甘いアルトサックスの音色、高らかに栄光を歌い上げるトランペットの音。

 多彩な表現力に夢中になって聴いているうちに四曲目が終わり、バンドのリーダーによるメンバー紹介が始まった。リーダーはライブ開始前に挨拶をしたあのアルトサックスの男性だ。
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