嘘から始まる運命の恋
「ここで、メンバー紹介をさせていただきます。まず、こちら、トランペットは演奏歴二十年、なによりも楽器を愛してやまないケイタ・ヤマザキ!」

 彼が手でトランペッターを示し、ヤマザキ・ケイタさんが短いフレーズを演奏して、客席が拍手を送った。

「ピアノは外見からもおわかりいただける通り、〝自称〟ピアノの貴公子、シュウイチ・カケイ!」

 客席で笑いが起こった隙に、カケイ・シュウイチさんが軽快なメロディを奏で、さらに会場が沸いた。そんなふうにしてリーダーがメンバーの紹介を終えて、最後に自分の名を名乗る。

「アルトサックスはバンドのまとめ役、ケイ・ナガオカです。個性豊かなメンバーにいつも苦労させられています」

 そう言って客席と一緒に苦笑してから、おもむろにマウスピースを口に含み、有名なジャズのフレーズを演奏し始める。巧みな指回し、繊細で甘い音色。

 ぞくり。

 背筋が震えて、両手で自分の体を抱いた。

 なんて音色だろう。このバンドに出会えたことを神様に感謝したくさえなってくる。
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