嘘から始まる運命の恋
 そうしてメンバー紹介が終わり、ライブは後半へと突入した。

 ノリのいい曲では客席も一緒になって盛り上がる。しっとりした曲ではみんなじっくりと聴き惚れる。明るい曲は底抜けに楽しく朗らかに。甘いラブソングは胸を打つほど切なく深く。

 どうしてこのバンドのこと、知らなかったんだろう。最後にジャズライブを聴いてからどのくらい経っただろう。日々の忙しさにかまけて、自分の心を潤して満たしてくれるものを忘れてしまっていた。

 OSK国際特許事務所で働く私は、所属する商標部での仕事をつまらないとかイヤだとかつらいとか思ったことはない。けれど、毎日の残業で、いつしか会社と家を往復するだけの日々になっていた。

 私、ジャズが好きだった。好きだったんだよ。

 こうしてライブに来て、胸を躍らせて、音楽の世界に浸って、ストレスを洗い流して。

 ああ、どうして忘れていたんだろう。こんなにも好きだったのに。好きなのに。

 どうしようもなく熱い想いが込み上げてきて、胸がいっぱいになる。全八曲のライブが終わったときには、私はもうケイズ・ジャズ・クインテットのファンに――虜に――なっていた。
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