嘘から始まる運命の恋
「とくに一曲目のあの曲! 私、あの曲大好きなの! サークルで何度も演奏したんだぁ。有名な曲だから、お客さんの心も掴みやすいよね!」
「俺たちもそのつもりで演奏してた」
「だよね! やっぱり! 掴みは大事だもんね~」

 私の言葉にケイがうなずく。

「さすが、やってただけあってわかってるね」
「わかるぅ? 能ある鷹はなんとやらですよ」

 少しだけ得意な気分になって言う私に、ケイがからかうような表情をする。

「言ったな~」
「ふふ。あの曲を聴いて、サークルのことを思い出しちゃった。もうね、演奏を聴いているときから、弾きたくて弾きたくて、ずっとうずうずしてたんだ!」

 カウンターをピアノの鍵盤に見立ててワンフレーズ演奏する。目を閉じると、ケイズ・ジャズ・クインテットの演奏が蘇ってくる。あのピアニストは私よりもずっとうまかった。その演奏を自分が弾いているつもりになって、十指を動かす。

「あー、いいなぁ、ステキだったぁ」

 目を開けてうっとりする。視線を感じて右側を見ると、ケイが右手で自分の頬を支えながら、私をじっと見ていた。
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