嘘から始まる運命の恋
 ホッと胸をなで下ろし、落ちていたショーツを拾い上げて履いた。ブラジャーのホックを留め、ブラウスのボタンをしながら部屋を見回す。ピアノの横のサイドテーブルの上には、私のハンドバッグとジャケットがあった。テーブルの上にはほかにダークグレーの楽器ケース――アルトサックスのケース――が置かれている。当のアルトサックスは、ピアノの横のサックススタンドに立てられていた。

 それを見た途端、昨晩の記憶が蘇ってきた。

 でも、今は思い返して後悔している時間なんてない。

 急いで髪に手櫛を通してスカートを整え、バッグとジャケットを手に取ると、抜き足、差し足、忍び足で、ドアを目指した。ようやくたどり着いたノブにそっと手をかけて、ダークグレーの防音ドアを押して開ける。ドアを閉める直前に見たが、ケイはまだソファの上で横になったまま眠っていた。

 安堵のため息をつきそうになるのをどうにかこらえて、静かにドアを閉めた。外側のノブにはホワイトボードの予約表がかけられていて、防音室をレンタルしている者の名前と時間が書かれている。そこにあるのは〝長岡、オールナイト〟の文字だ。

 オールナイト。
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