嘘から始まる運命の恋
 それはそうだ。フルート一本、クラリネット一本でも、値段はピンからキリまである。

「音楽教室のほかに、防音室があって好きな時間レンタルできるんだよ」

 楽器ケースや段ボールの置かれた狭い廊下を、サックスケースを背負ったケイが先に歩いていく。狭いけれど彼の手は離れない。それがうれしい。

 音楽室1、音楽室2、音楽室3と書かれたドアが続き、その奥にレンタル防音室1があった。

「今日は特別、無料で」

 ケイが笑って、ドアノブにかかっているホワイトボードに〝長岡〟と記入した。

「どのくらいレンタルするつもり?」

 誰もいない店内。こっそりと忍び込んで、ふたりだけの演奏会。それを考えるだけで、ワクワクしてくる。

 ケイも楽しそうに言う。

「俺はオールナイトで。ここに泊まるから」
「泊まる!?」

 目を見張る私に、ケイがあっさり言う。

「そう。ライブの後、家に帰るのが面倒くさいときとか、勝手に泊まってる」
「悪いんだぁ」
< 46 / 89 >

この作品をシェア

pagetop