嘘から始まる運命の恋
 私の言葉にケイが「秘密だよ」と笑った。

「鍵をもらっているくらいだし、ホントは伯父さんの了解を得てるんでしょ?」
「実はそう。電車の時間もあるだろうし、マユは飽きたらいつでも帰っていいよ」

 飽きることなんてあるんだろうか。あんな演奏をできるケイと一緒にピアノを弾けるなんて、夢みたいだと思っているのに。

 ケイが防音室のドアを開けた。そこは六畳ほどの部屋で、奥の壁際にアップライトピアノが置かれていて、手前にふたりがけのソファがある。

「荷物はソファの上でも、ピアノの横のサイドテーブルでも、好きなところに置いて」

 ケイはそう言ってジャケットを脱ぎ、ソファの背もたれにかけた。ワイシャツの袖のボタンをはずして折り返しながら、サイドテーブルに近づく。

「たしかシュウイチが楽譜を置いてたはずなんだ……」

 ケイがサイドテーブルの真ん中に積まれた紙の束を引っかき回して、何枚か抜き出した。

「あったあった。これ」

 差し出されたのは、ケイズ・ジャズ・クインテットがライブで最初に演奏した曲だ。
< 47 / 89 >

この作品をシェア

pagetop