嘘から始まる運命の恋
「うわぁ、これ！　懐かしい！」
「ドラムスなしにアレンジしたのもあるんだ」

　ケイが別の楽譜を渡してくれた。

「ああ、これいい！　これならアルトサックスとピアノだけでもじゅうぶん様になるよね」
「ほかにもあるよ」

　ケイに差し出された楽譜を胸に抱いた。大好きなピアノに向かう高揚感で体が震えそうだ。

「弾いていい？」
「ここまで来てダメなんて言うわけないだろ」

　ケイにあきれたように言われて、私はピアノの鍵盤蓋をそっと持ち上げた。現れた白と黒の鍵盤にそっと手をのせる。ポンと鳴らした音が、胸にこだまする。

　私が楽譜を広げて軽く指ならしをしている横で、ケイが背負っていたケースを下ろしてアルトサックスを組み立て始めた。彼も音出しをして、演奏に備える。

　譜面を見ながら、数フレーズ弾いてみた。最初はなまっていた指も次第に感覚を取り戻し、思う通りに動くようになる。

「そろそろよさそう？」

　鍵盤の上にケイの影が落ちた。右手を見上げると、ケイがいる。黄色がかった照明を受けて、彼のやや明るい茶髪が、キラキラと輝いて見えた。
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