嘘から始まる運命の恋
 そうだよね、私、やっぱりこの防音室の中でケイと一夜を過ごしたんだ……。

 ついさっき、あんなに幸せな気持ちで目覚めたのに、今感じることができるのは後悔と罪悪感だけ。それもとびっきり大きな。

 はあぁ。

 信じらんない。なんで、よりによって、長岡ケイと。

 私は深いため息をついて、裏口からその楽器店兼音楽教室の建物を出た。楽器店の入るショッピングモールでは、まだどの店も開いていない。ブレスウォッチを見ると、時刻は午前五時五十分だ。九月上旬の空は晴れ渡っていて、日曜の早朝の空気はすがすがしいけれど、それを胸いっぱい吸い込む余裕もなく、私はすたすたと幹線道路沿いに歩いた。しばらくすると、くすんだ白色の駅舎が見えてくる。チラッと振り返ったけれど、ケイが追ってくる気配はない。

 今から帰れば、真由里が起きる前に部屋に戻れるはず。

 私は急いで改札を通り、やってきた電車に乗り込んだ。車内はガラガラで、私はドアの横の座席に腰を下ろした。

 頭を窓ガラスに預けて、天井を見上げる。

 私はなんてことを……。

 目を閉じて、ふーっと大きく息を吐いた。
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