嘘から始まる運命の恋
 そんなふうに少年のような表情もするかと思えば、ソファの上で私を組み敷いていたときの彼は、ゾクゾクするほど野性的な表情をしていた。射るような鋭い眼差し、甘く微笑む口もと。私とひとつになって余裕をなくしたときに悩ましげに寄せた眉……。思い出すだけで、胸が熱くなる。

 でも、真由奈ならこんなこと、ありえなかったはずだ。

 惚れっぽい真由里と違って、私は恋に慎重な方だ。大学時代の彼とだって、しばらく友達付き合いをしてから恋人になった。高校時代の彼氏ともそんなふうに付き合っていた。社会人になってからは、残業の多い仕事柄、同期ともなかなか遊ぶ機会がなく、数少ない男性社員とも友達付き合いをするどころか、ただの同期の関係のままだ。

 出会って一日も経たずに好きになって体を重ねるなんて。

 やっぱり信じられない。

 私じゃないみたい。

 その思いに悲しくなる。

 ケイにとって、私は私じゃない。

 ケイが『恥ずかしいからこの話は高校を出てからは誰にもしてないんだ』と言って打ち明けてくれた話は、私じゃなくて真由里にしたもの。彼は今でも私を真由里だと思ってる。
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