嘘から始まる運命の恋
 巡査の言葉に頭が真っ白になった。

「か、彼は無事なんですかっ!? け、怪我の程度はっ」

 巡査に詰め寄ってしまい、落ち着くようにとジェスチャーをされた。一歩下がって深呼吸をする私に、巡査が言う。

「最初の救急車で中央病院に搬送されました。二十分ほど前です」
「わかりました。ありがとうございますっ」

 私はぺこりと頭を下げ、大通りに走った。歩道を駆けながら大きく片手を振って、タクシーを停めた。開いた後部座席のドアから大急ぎで乗り込み、行き先を伝える。

「できるだけ急いでお願いします。知人が……た、大切な人が運ばれたんです!」

 年配の運転手さんは「できるだけ混んでいない道を通ります」と言ってくれた。走り出したタクシーの座席で、私は祈るように両手を組む。

 どうか、どうか無事でいて。私、まだ謝ってない。まだなにも伝えていない。

 けれど、日曜日の大通りは車が多く、思ったほど早く進まないし、何度も信号に掴まってしまう。赤信号で停車するたびにイライラして、ヤキモキして、もう頭がどうにかなってしまいそうだ。ようやく病院に着いたときには、お札だけ渡してタクシーを飛び出していた。
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