嘘から始まる運命の恋
「お客さん、お釣りは?」

 運転手さんの声に走りながら怒鳴り返す。

「取っといてくださいっ」

 そうして病院の自動ドアに向かった。ゆっくり開くドアに体をねじ込むようにして入り、総合受付に近づく。

「あの、すみません。さっき、事故で運ばれてきた長岡快さんはどこですかっ」
「あなたは……?」

 受付の事務服の女性に問われて、とっさに「恋人ですっ」と答えていた。最近の病院ではプライバシーの問題もあって、入院患者のことを教えてくれないこともあるという。恋人ではダメかもしれないと思ったが、女性は面会者名簿を差し出してくれた。

「こちらに名前を記入してください。三階へどうぞ」

 ボールペンを取って迷った。高原真由里と書くべきか、本名を書くべきか。

 でも、すぐにボールペンを走らせた。

 私は高原真由奈としてケイに会いに来たのだ。ここで嘘を書いたら、嘘を終わらせることはできない。
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