プリマネ!恋はいつでも真っ向勝負
帽子を深く被ってうつむいている敦士に、あたしはもちろん、誰もが声をかけれずにいた。

泣いているわけじゃないけれど、いつもの敦士の雰囲気とはあまりに違いすぎて、なんて声をかけたらいいのか分からない。きっと、他のみんなもそう。


「ナイスピッチング、敦士」


静まりかえったベンチ、一番はじめに敦士に声をかけたのは、みのるだった。


「サンキュー、メッタ打ちされたあげく、サヨナラ負けしたけどな。つか、お前メガネなかったから見えてなくね?」


穏やかに笑みを浮かべながら敦士に拍手をおくるみのるに、イヤミっぽく返す敦士。


「見えなくても分かるよ。
今日の敦士のピッチングはすごかった。
僕よりもずっと、ね。
僕も負けてられないな、エースの座はゆずれないからね」

「......サンキュー、みのる。
来年はメガネの替えを用意しとけよ」


そんな敦士にも動じないみのるに、今度は敦士も笑顔を浮かべて、がっちりと握手を交わす。

そして、みのるに続いて、他のみんなもキャプテンナイスピッチングと敦士に拍手を送り、なんだか泣きそうになった。


ていうか、敦士よりあたしの方が喜んでるかも。

みのるの心の中までは分からないけど、試合中はあんなことを言っていたみのるが、敦士のことを名前で呼んだ。

試合には負けてしまったけれど、なぜかそれが無性に嬉しい。
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