絶叫脱出ゲーム~奴隷部屋カラ今スグ逃ゲロ~②
自分を落着かせるように心の中でそう思う。


その時だった、公恵がチケットから顔を上げてあたしを見た。


公恵と目が合うと同時にドクンッと心臓が跳ねた。


心臓を強い力で掴まれているような、苦しさを感じる。


「ありがとう、朱里!」


そう言って抱きついてくる公恵。


「へ?」


あたしは思わずキョトンとしてしまった。


「これ、シークレットライブなんでしょ? バレちゃまずいからチケットにはdashの名前を入れてないなんて、徹底してるよねぇ」


あたしから身を離し、感心したようにそう言う公恵。


「え……あ、うん……」


公恵はチケットの怪しさなんて全く感じていないようで、あたしは拍子抜けしてしまった。


怪しまれた時のために考えていた嘘を、公恵に先に言われてしまった感じだ。


「イベントには朱里と優也さんも来るの?」


「え? あ……たぶん」


あたしは曖昧に頷く。


もちろん、当日は《mother》に行くつもりだ。


チケットを渡した人間が全員ちゃんと来ているかどうか、確認するために。


「そっか。じゃぁ仕事しながらでもライブが見れるじゃん!」


「う、うん」


「これで2人もdashのファンになっちゃうかもね」


公恵はとても嬉しそうにそう言う。


「そうだね……」


あたしは公恵と一緒に微笑みながらも、後ろめたい黒い感情に包まれていたのだった。
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