イヌネコポラリス
(別に今さら先生とどうこうってのは考えていないけど)

この仕事が好きだしやりがいもある。しかも給料もいいと来れば、下手に下心を出してここを追い出されるのは得策ではない。可愛い顔をして現実的だとよく言われるが、そればかりは仕方ない。

けれど興味だけは別問題で、もし仮に先生に恋人がいるとすればどんな人なんだろうとか、それ位考える分には罰は当たらないだろう。

いたとしても仕事に支障がなければ問題がないし、問題のない範囲であればスケジュールを調節したり、何ならデートスポットも助言する事も厭わない。

こう見えて高校時代では橋渡し役をやった事だってある。まぁそんな事はあちらも得意分野だろうし、わざわざ私の手を借りる事にはならないだろう。

そんな事を考えながらも手は淀みなく動き、各弁護士のスケジュールや会合の予定を後ろにある大きなディスプレイに反映させるように打ち込んでいると、着物姿の男性が視界の端に映る。

「いらっしゃいませ、ご予約のクライアント様でしょうか?」

隣にいたもう1人の受付が声をかけると、「そうじゃねぇんだけどよ」とここの空気に居心地の悪さを感じているのか、60歳代位の老紳士が頭を掻く。

「この前ここの黒柴先生に助けてもらったんで、お礼の1つでも言いに来たって訳だ」

「左様でしたか。生憎黒柴は外出しておりますが、必要があればアポイントをお取りしましょうか?」

「ああ、いいって。ありがとなって伝えてくれ」

(口調は砕けているけど……)

でも何となく品と言うか、風格があるなと思っていると、いつの間にか見ていた私の視線に気が付いた老紳士がいたずらっこのように笑っている。
< 5 / 26 >

この作品をシェア

pagetop