片腕のピアニスト
「違うだろォ!!!」
大声が出た。
かつて、俺がいいこちゃんだったときには出したことのない、悲痛な叫び声をここら一帯に撒き散らした。
ただ、病室ではなく、診察室的な暗い場所にいるので、先生たちにしか声は届いてないだろう。
いい。別に、誰も聞いてないし。
「…すんません。何もないです。
話はそれで終わりっすか。」
「ああ、終わりだよ、」
長かった話は、多分何の役にも立たないだろう。
「もう退院できますか。」
「ああ、もうできるよ。」
「今日今から退院したいんで荷物纏めます。」
「ああ、いいよ。」
「…この手は、治りますか。」
「………。」
わかってたけど、まあいいんだ。
聞いてみたかっただけだから。
「治るよ。」
嘘つけ。
「じゃあ。ありがとうございました。」
「ああ、体に気をつけてね。」
何言ってんだよ。
残酷だな。
大事にする体なんてどこにもねぇだろ。